葬儀が終わっても、やることは減るどころか増えていきます。役所、年金事務所、金融機関、法務局、税務署。どこから手を付け、どこを人に頼めばいいのかが見えないまま、日だけが過ぎていきがちです。この記事では、相続の手続きを1本の時系列に並べ、それぞれを誰が担うのかを整理します。家の片付けも含めた全体像は「親が亡くなった後、家の片付けと手続きの全体像」にまとめています。
手続きを早い順に並べると、死亡届の7日から相続登記の3年まで
期限は原則として「亡くなった日」ではなく「相続の開始を知った日(の翌日)」から数えます(死亡届など一部は死亡を知った日から)。
- 死亡届7日以内
- 遺言・相続人・財産の確認なるべく早く
- 相続放棄の判断3か月以内
- 税の申告(該当すれば)準確定申告は4か月・相続税は10か月以内
- 遺産分割期限はないが、10年を過ぎると特別受益・寄与分を原則主張できない
- 相続登記知った日から3年以内(義務)
| 時期 | やること | 期限の性質 | 主に頼む相手 |
|---|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出(火葬・埋葬許可) | 法定(戸籍法86条) | 自分(葬儀社が届け出てくれることも) |
| 10〜14日 | 年金の受給停止、健康保険・世帯主変更などの届出(年金は、マイナンバー登録済みなら届出が不要な場合も) | 各制度の期限 | 自分(役所・年金事務所) |
| なるべく早く | 遺言書の有無の確認、相続人の確定(戸籍収集)、遺産・負債の把握 | 期限はないが後続の前提 | 自分/司法書士 |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申述 | 法定(民法915条) | 弁護士(要否の判断)・司法書士(申述書の作成) |
| 4か月以内 | 準確定申告(被相続人の所得税) | 法定(該当する場合) | 税理士 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 法定(該当する場合) | 税理士 |
| 遺産分割 | 遺産分割協議・協議書の作成 | 期限はない(10年を過ぎると特別受益・寄与分を原則主張できない)※ | 自分/司法書士/(もめたら)弁護士 |
| 知った日から3年以内 | 相続登記(不動産の名義変更・義務)。分割前でも期限は止まらない | 法定(2024年義務化) | 司法書士 |
3か月・4か月・10か月・3年の4つは、知った日を入れると日付で確かめられます(期限カレンダー)。
期限は「知った日」を起算点とし、個別の事情で変わります。自分のケースの正確な期限は、専門家に確かめてください。
段階ごとの進め方と、それぞれ誰に頼むか
最初の2週間:死亡届と役所の届出は自分で。書類の確保もこの時期に
- 死亡届(7日以内)、火葬・埋葬の手配。葬儀社が届け出を引き受けてくれることも多いです。
- 年金の停止・保険・世帯主変更などの役所手続き。
- 貴重品・重要書類の確保:通帳・印鑑・不動産の権利証・保険証券など。これは相続手続き全体の前提になります。
早めに:遺言の有無、相続人、財産と借金を確かめる
- 遺言書の有無を確認(自宅などで保管されていた自筆証書は家庭裁判所の検認が必要、公正証書は公証役場で照会)。遺言があれば、実家を誰が継ぐかが遺言で決まっていることがあり、その後の進め方が変わります。
- 自宅などで自筆の遺言書を見つけたら、封の有無を問わず家庭裁判所での検認を申し立てます(民法1004条)。封印のある遺言書は、開けずにそのまま持参してください(家庭裁判所で開封する決まりです)。
- 公正証書遺言は、全国どこの公証役場でも検索を申し出られます(平成元年以降に作成されたもの・相続人など利害関係人が申出・無料)。
- 法務局に預けられた自筆証書遺言は、法務局で「遺言書保管事実証明書」を請求すると、保管の有無が分かります(相続人等が請求できます)。中身を相続の手続きに使うときは、「遺言書情報証明書」を使います。この2つは検認不要です。
- 実家の片付けの途中で遺言書やエンディングノートが出てくることもあります。重要書類と同じく、見つけたら捨てずに確保してください。エンディングノートに法的な効力はありませんが、親の希望や財産の在りかの手がかりになります。
- 相続人を確定:被相続人の出生〜死亡の戸籍を集めます。ここでつまずきやすいため、複雑なら司法書士に依頼します。
- 財産・負債を把握:預貯金・不動産・有価証券と、借金・保証などのマイナスも。マイナスが多そうなら、次の相続放棄(3か月)を急いで検討します。
- 自宅などで自筆の遺言書を見つけた(封の有無を問わず)家庭裁判所で検認を申し立てる。封印があれば開けない
- 公正証書遺言全国どこの公証役場でも検索を申し出られる(検認不要)
- 法務局に預けられた自筆証書遺言法務局で「遺言書保管事実証明書」を請求(検認不要)
3か月以内:借金が多そうなら、相続放棄するかを決める
- 借金・保証など負の遺産を引き継がない選択が相続放棄です。期限が短いので、少しでも不安があれば早めに動きます。3か月の期間は、事情によって家庭裁判所に申し立てて延ばせる場合があります。
- 相続放棄を考えているうちは、遺品を売る・譲る・捨てるなどの処分や、預金の引き出しは控えてください。処分すると放棄できなくなることがあります(民法921条)。迷うときは、片付けの前に専門家に確かめてください。
- 放棄すべきかどうかは個別の判断になるため、弁護士に確かめてください。家庭裁判所に出す申述書の作成は、司法書士に相談できます。
4か月・10か月以内:該当すれば準確定申告と相続税の申告
- 準確定申告(4か月):被相続人に事業・不動産・一定の年金収入などがあった場合。1〜3月に亡くなったときは、前年分の確定申告が済んでいないと、前年分も必要になることがあります。
- 相続税の申告(10か月):相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合。たとえば法定相続人が3人なら、基礎控除は4,800万円です。かかるかどうか、いくらになるかは個別に変わるため、判断は税理士へ。
遺産分割と相続登記:登記の3年は、分割を待たずに数える
- 遺産分割協議で、誰が実家を相続するかを決めます。兄弟で意見が割れやすいテーマです(話し合いの進め方は「兄弟で実家じまいが揉める前に」)。まとまらず紛争になった場合は弁護士へ。
- 相続登記は、知った日から3年以内(義務)。分割がまとまらなくても期限は止まりません。分割前は「相続人申告登記」(または法定相続分での登記)で申請義務を果たせ、分割が成立したら、その日から3年以内に分割どおりの登記をします。やり方の当てはめは司法書士に確かめてください。
- 売却して現金で分ける場合は、売却時の税(「実家を売った時の税金と3000万円特別控除」)も関わります。
誰に頼むか:登記は司法書士、税は税理士、紛争は弁護士
| 相手 | 主に担う場面 | じまい堂の関わり |
|---|---|---|
| 自分 | 死亡届・役所手続き・書類集め・単純な分割 | 進め方を情報提供 |
| 司法書士 | 相続登記、戸籍収集、書類作成(相続放棄の申述書を含む) | ご案内(紹介料はいただきません) |
| 税理士 | 準確定申告・相続税の申告・特例の判定 | おつなぎ |
| 弁護士 | 相続人間の紛争・遺産分割の調停/審判・相続放棄の要否の判断 | ご案内(紹介料はいただきません) |
次に知っておきたいこと:実家の名義変更は、自分でできる?
順番が見えると、最後に残る相続登記を「自分でやれるのか、司法書士に頼むのか」が気になってくるはずです。必要書類、期限、自分で申請できるケースと頼んだほうがよいケースの見分け方は、「相続登記の義務化、実家の名義変更のやり方と期限」にまとめています。
ほかに気になることがあれば:
- 遺産分割で兄弟の意見が割れそう →「兄弟で実家じまいが揉める前に」
- 実家を売ったときの税金を知りたい →「実家を売った時の税金と3000万円特別控除」
出典(取得日 2026年10月11日)
- 年金の死亡届(厚生年金10日以内・国民年金14日以内。日本年金機構にマイナンバーが収録されていれば原則不要):日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」。
- 死亡届(死亡を知った日から7日以内):戸籍法第86条=e-Gov法令検索「戸籍法」。
- 相続放棄・限定承認(知った時から3か月以内・家庭裁判所への申述):民法第915条・第938条=e-Gov法令検索「民法」、裁判所「相続の放棄の申述」(一次出典)。期間の伸長(民法915条1項ただし書)、遺品の処分による単純承認(民法921条1号)も同じ民法による。
- 準確定申告(知った日の翌日から4か月以内):国税庁 No.2022「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」(一次出典。1〜3月の死亡で前年分が必要な場合もここに記載)。
- 相続税の申告・納付(知った日の翌日から10か月以内)・基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数):国税庁 No.4205・No.4102(一次出典)。配偶者の税額の軽減(未分割のままの申告では使えず、申告期限から3年以内の分割で後から適用できる場合がある):国税庁 No.4208「配偶者の税額軽減」(一次出典)。
- 遺言書の検認・封印のある遺言書の開封(民法第1004条。公正証書遺言・法務局保管の遺言書は検認不要):裁判所「遺言書の検認」。公正証書遺言の検索(平成元年以降・相続人等の利害関係人・全国の公証役場・無料):日本公証人連合会「公正証書遺言が作成されているかどうかを調べることができますか?」。遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書:法務省「自筆証書遺言書保管制度」、法務省 遺言書保管制度のページ(一次出典)。
- 遺産分割と特別受益・寄与分の10年の期限:民法第904条の3。
- 相続登記の義務化(2024年4月1日施行・知った日から3年以内・10万円以下の過料・遺産分割前は相続人申告登記で履行可):不動産登記法第76条の2、法務省「相続登記の申請義務化について」(一次出典)。